【事業者紹介】“美味しい”に愚直に。水産都市・焼津「ヤキレイ」が生み出す最高級鯖寿司と鰻

小川港と焼津港、二つの漁港をもつ焼津市は、日本一の水揚高を誇る水産都市。
その焼津には、京都や大阪の高級料亭から鯖寿司や〆鯖の注文が絶えない加工会社「焼津冷蔵」があります。
「ヤキレイ」として一般の方向けに通販事業も始めた3代目社長・原崎太輔さんに、
そのこだわりや水産都市・焼津についてお聞きしました。

―焼津冷蔵さんは、高級料亭や百貨店などに鯖寿司や〆鯖を卸していると聞きました。
生食用の鯖の加工品が主力商品で、もともと出荷先はほとんどが鯖寿司屋。
我々が作っている塩鯖は鮮度も品質も非常に高く、
「焼津の塩鯖だったら生で食べられる」と高評価をいただいたんです。
こうして、多くのブランドや料亭の鯖寿司のもとになる〆鯖を作り出したのが20~30年前。
おかげさまで、京都、大阪の駅で販売されている鯖寿司の多くを
当社が手掛けさせていただいて、今や抱えるレシピは200超になりました。

―そんなにも! 焼津の〆鯖は関西圏でブランド認知されているというわけですね。
でも静岡の方は意外とご存じない。やはり地元の方にも知っていただく、
召し上がっていただくというのは我々がやらなければいけないことだと思っています。
そこで当社でも一般の方向けに約2年前から、京都や関西のお客様の競合にならないよう
通販等の直売スタイルでの販売をスタートさせました。

―内閣総理大臣賞受賞「切れてるお茶しめさば」には、なんとお茶が使われているとか。
臭い消しのためにお茶で下処理をしているんです。
スーパーで売る〆鯖はパック入りで賞味期限も長く、そのため鯖の臭いが出やすい。
だからといって添加物はあまり使いたくない。そんなときにお茶のカテキンが臭い消しに効くと知り、
静岡のお茶で下処理することを考えついたんです。
お茶の緑色が鯖の身に残ってしまうのが難点だったのですが、
緑茶の一種「サンルージュ」は淡いピンク色になることに数年がかりで辿り着いて…。
その後は品評会などでも認められ、内閣総理大臣賞を受賞することができ、
伊勢神宮にも奉納させていただきました。
今は一般的な緑茶でも緑色が残らない製法を社員が考えてくれて、
ゆくゆくは生産農家の方と組んだりできると面白いなと思っているところです。

―鰻の蒲焼にも、お茶から着想した「深蒸し」という製法を取り入れていらっしゃいますね。
箸でなかなかつかめない柔らかい蒲焼を作るのがこだわり。
お茶の深蒸しにヒントを得て、約2倍の時間をかけて蒸すんです。
すると、柔らかさと一緒に本来持っているコクも出る。
鰻はよく火入れすると美味しくなるものの、驚くほど縮むので、
深蒸しをやる工場はあまりないんじゃないかな…。
よく、食べる前にフライパンで蒸すとお店の味に近くなるとか言いますが、
それは当社の蒲焼では絶対にやっちゃだめ(笑)。もう十分に火を入れているから、
逆に美味しくなくなるんですよ。
柔らかく美味しく食べてもらうために、しっかり火を入れる。
当社はそれをただただ真面目にやるだけ。そのぶん手間がかかるので、
お客様からは「やっぱヤキレイの蒲焼は美味しいよね、高いけどね」って言われるんですけど(笑)。

―鯖と鰻を扱うことになった経緯は?
祖父がその昔、漁師に漁船を提供する船元で、漁師でもあったのが発端です。
約50年前の駿河湾では鯖がたくさん捕れていたんですが、同時期に浜名湖で鰻の養殖が始まり、
小さい鯖をエサにするとわかった。ならば大きい鯖は人間に、小さい鯖は鰻にあげればちょうどいい、
いっそのこと鰻の養殖をと、祖父の代で考えついた。その流れで、鯖を軸に鰻も扱っているわけなんです。

―焼津市は「小川港さば祭り」が行われるだけあって、もともと鯖の水揚が日本一だったと。
そうです。でも温暖化の影響で魚が捕れる漁港がどんどん北上しているのと、
水産業自体が落ち込んできている。
ただ、今でも焼津は日本一の水揚高を誇る水産都市。
夕方になると鰹節の香りが漂ってくるディープな街ですが(笑)、
そこに根付いた会社があって、雇用を生み出し、魚で飯を食っている人間がいるということを
次の世代にも残していきたいと思うんです。

―水産業と焼津への並々ならぬ想いを感じます。「焼津冷蔵」の今後についてもお聞かせください。
「焼津にはヤキレイがあるよね」って言われるような会社にしていかないといけない。
できれば、祖父がやっていた6次産業化も目指したい。
自ら捕ってきたものを、自らが売って直接食べてもらうところまでができる会社にしたいですよね。
そこにきっと人や物が集まってくると思うんですよ。地域産業が発展すること―。
当社がそのパズルのひとつになれれば嬉しいなってすごく思います。
まずはとにかく一度、うちの〆鯖を召し上がってみてください!(笑) 本当に美味しいですから。

ライター:左藤緋美