堀さんは静岡出身ですが、公認会計士として東京で働いた後、より説得力を持った仕事ができるようにと、奈良の中川政七商店にて経験を積み、現在は家業で創業333年の老舗雑貨店、三保原屋の事業承継のため静岡へ帰ってきました。「より知る事で静岡が好きになった」と話す、堀さんにお話をお伺いしました。
――公認会計士、中川政七商店での経験と、着々と家業を継ぐための準備をされていたと思うのですが、静岡へ戻られたのはその準備が整ったタイミングだったからなのでしょうか?
実は、元々実家を継ぐ気はありませんでした。父も自分の代で店を終わらせても良いと考えていたようですし、家業があることでそれを継ぐのが当たり前と見られるのも嫌でした。
公認会計士の取得は特に明確な理由があったわけではないです。ただ公認会計士としてのコンサルの仕事は、失敗してもあくまで他人のビジネスなので自分には痛みがないと感じていました。転職したのは、数字を正しく経営の意思決定に活かすには、コンサルではなく、実業をする必要があると感じたからです。
一方で、コンサルにも一定の興味はあったので、実業もコンサルも兼ね備えている中川政七商店へ転職しました。
静岡へ戻ったのは、奈良にいるときに子供が生まれた事がきっかけになりました。ライフステージが進むにつれて、子育ての環境、妻の生活、両親のこと、家業などを改めて考えた時に、どこかにちゃんと軸を置いて生活するべきだと思い静岡へ戻ることを決意しました。
――実家を継ぐ気がなかったとのことですが、継ごうと思った理由はなんでしょう?
そうですね。今までの経験から実家の経営に役立てる知識があったことは家業を継ぐ上で後押しになりました。でもそれ以上に、今まで三保原屋が培ってきたお客様との関係や従業員との関係を終わらせてしまうのはあまりにも勿体無いと思ったんです。
終わらせてしまったら二度と継ぐこともできなくなってしまうので、それなら一度やってみようと。
――実家を継ぐというのは簡単そうに見えて、大きな決断だと思うのですが、事業承継をする上で意識していることはありますか?
確かにそうですね。事業承継自体は人生の一大イベントになるくらい大きく、魅力のある取組になると思います。これは三保原屋だけではなく全国的にも同世代で取り組んでいる人が多いですね。
その中でよく聞くのは、お客さんを見る目を養うために、まずは現場から全てのレイヤーの仕事を経験することが大切という話です。
また、会社によって正しい方法・順番・スピードがあると思うので、急ぎすぎず時間をかけて行おうと思います。三保原屋各店舗の良さを活かしつつ、時代に適合できるよう、道を踏み外さないようにしたいと思います。
――東京、奈良と違う地域での生活を経て、静岡へ帰ってきたわけですが、戻ってくる前と今とでは違いがありますか?
東京で会計士をしていた頃は静岡のことを自信持って好きとは言えなかったですね。帰りたいと思ってもいませんでした。丸の内でスーツを着て仕事をするって格好良いなと思っていましたし。でも実際はそんな生活をしていても虚しさと疲弊感が強かったです。なんか見栄を張っているような感じ。今は様々な機会を通して静岡のことをより知ることが出来て好きになっています。
――静岡を知ることで好きになったというのはどういうことでしょう?
単純に静岡のことを知らなかったです。静岡の産業や文化のこともよく知らなかった。
でも今はお客さんや生産者さんなど様々なことを通して静岡の良さを知る機会が増えています。
人の雰囲気に関しても、他県から店舗にお越しになったメーカーさんと話している際、自然とお客さん同士が順番を譲り合ってくださっているのを見て「三保原屋さんは良いお客さんをお持ちですね」と言われることがよくあります。
また、静岡は小規模ながら資源や産業も豊富で、知り合いを介せば、どこまでも人脈が広がることも地方ならではで面白いと思います。文化の面でも、静岡はもっと胸を張って良いと思いますね。徳川家康さんが育ち、晩年を過ごしたということもあり、浅間神社や久能山東照宮など文化的価値が高い場所も多い。
――その他に静岡で暮らす面での良いとこはありますか?
働くこと、暮らすことは、社会的な繋がりや自己実現だと思っています。全く1人で生きていけるほど人間は強くありません。インターネットであえ、リアルであれ、どこかで人とは繋がっています。そういった意味でも、人のつながりを持ちながら暮らすには、適度に狭いし適度に広い静岡は良いですね。
妻は東京出身で移住に際して最初は不安もありましたが、静岡は東京や名古屋などの影響を程よく受けているためか、馴染みやすかったみたいです。街中から車で15分~30分走れば山・川・海もある一方で、東京まで新幹線では1時間で行くこともできる点も便利ですね。市街地も集合していて、平地が多いから自転車で移動しやすく生活しやすいみたいです。
公認会計士の資格を持ち様々な経験を経て、静岡で家業の事業承継に取り組む堀さんのお話を聞くと、様々な静岡の魅力を再発見すことができ、なるほど!と思うことがたくさん出てきました。これから静岡へUターンしようと考えている方、静岡出身だけど県外で暮らしている方は、いま一度静岡の文化や特性を見つめ直すと改めて見つけられる静岡の魅力があるかもしれません。