【働き方】違和感を感じた地元・藤枝を「じわじわと熱くする」僧侶のチャレンジ。

静岡県藤枝市のほぼ中央に位置し、おだやかな水面を四季折々の自然が囲む蓮華寺池公園。藤枝市民の憩いの場として、長く親しまれています。
なんでもここ最近、この蓮華寺池公園を舞台に、「藤枝おんぱく」をはじめとした地域の活性化を目指すさまざまな取り組みが行われているとか。その中心として活動する、一般社団法人SACLABO・NPO法人SACLABO理事を務める大場唯央さんにお話をうかがいました。取材現場に現れた大場さん、一見して「NPO法人の理事」というよりも、ある職業の方に見えるのですが……?

“違和感”というきっかけ

――大場さん、差し支えなければうかがいたいのですが、お坊さんでいらっしゃる……?

はい、大慶寺というお寺の副住職をしております。もともとお寺の三男坊でしたが、寺を継ぐ予定はなくて、高校や大学も普通の学校に行きました。大学進学では東京に引っ越しました。

――お寺を継ぐ方なら、それぞれの宗派の大学に行ってそこで勉強して、よそのお寺で修行して……というルートが多いですよね。

三男坊なので、のらりくらりと育ちまして(笑)。でも大学3年のときにこっちの道に進むことになって、通っていた大学とダブルスクールというかたちで仏教系の大学に入り、僧侶になりました。

――では、そのまま今のお寺でお坊さんとしての活動に移られたのですか。

いや、実際はそんなにスムーズではなくて……。最初藤枝に戻ってきたころは、いろいろと違和感を感じてたんですよ。例えば、東京の大学で同期だった人たちは毎日何億というお金を動かす仕事をしてますが、こっちの同級生は仕事は定時で上がって飲みに行くか車でどこか行くかという感じ。そのギャップに、何度も東京に戻りたいなって思っていました。

――でも、お寺ですから「転職して東京戻るわ」ってわけにもいかない。

そうですね。そこで、「住んでいるところを好きにならない限りは、ずっとこのままつらいだけだな」って気がついたんです。そこから、今やっているような地域にかかわる活動を始めました。これが2010年ごろで、20代後半のことでしたね。

――それが、今の一般社団法人・NPO法人SACLABOにつながってくるわけですね。

NPO法人として設立したのが2014年です。当初は事務所が藤枝の駅近くにあったんですが、蓮華寺池公園の魅力が生かし切れていない、蓮華寺池公園を中心にまちづくりをしたいと思い、そこで、蓮華寺池公園に移ることにしたんです。毎月の第3日曜日に「れんげじオーガニックマーケット」を開催していたというご縁もありますしね。

――でも、蓮華寺池公園って藤枝市の管理している公園ですよね。そこに事務所を構えるのはなかなか大変だと思うのですが……。

実は、事務所が入っている建物と隣の駐車場は、公園のなかですが私有地なんですよ。2階が『あずまそ』という日本料理屋さんで、1階が事務所。「オーガニックマーケット」もそこの駐車場でやらせていただいています。
ただ、僕たちの事務所ができるだけでは何も生みださない。そこで、コーヒーの移動販売をやっている僕の友だちに「車でやるよりちょっとだけ広くなるんだけど、やらない?」って声をかけて、コーヒーを淹れるお店にしてもらいました。

――では、SACLABOさんの活動としては、「オーガニックマーケット」と「藤枝おんぱく」ですね。「おんぱく」というと、各地の温泉街で「温泉博覧会」という意味合いでやっていますが、ここに温泉があるようには見えないのですが……。

藤枝おんぱくは、「温故知新博覧会」という位置づけでやっています。元々の意味は「故きを温ね新しきを知る」という意味ですが、『藤枝おんぱく』では「今あるものを新しい視点で」という意味で使っています。この地域で暮らす人たちが、「面白い」「素敵だ」と思ったことを、みんなでやってみようというものです。例えば今日は酒蔵で日本酒の奥深さを学ぶ定員6名のプログラム、明日は茶畑で定員5名のお茶摘みツアーなど、4月後半から6月上旬までの長い期間、いつもどこかでなにかのイベントが行われている。

――それは楽しいですね。期間中ずっとお祭りをやっている感じです。

普通のお祭りだとある一日だけ、特定の場所でということになりますけど、藤枝おんぱくは小さな体験イベントを複数、長期間にわたってやっていく。観光事業でもあるんですけど、それよりも地域の主役というか元気のある人を発掘して、お互いにつながっていくという認識のほうが強いですね。


「開発僧」のチャレンジ

――ちょっと話を戻します。蓮華寺池公園ってすごくいいところですが、それでも市が管理している以上は営利事業はできませんよね。

そうですね。最初にオーガニックマーケットをやろうとしたときも、「蓮華寺池公園って、お財布持って行くところじゃないよ。マーケットなんかやったって、売れるわけないじゃん」と言われました。

――市民サービスとしての役割だけ見るとそれでいいのかもしれませんが、それではなかなか人が行き来する場所にはならないですよね。

なので、公園に隣接した土地をどんどん活用して、お金を使う場所を作る試みを始めています。土地としては民有地だけど、見た目は公園の一部ですからね。公園と一体のようにして開発していき、しっかりと稼いで、公園に再投資していこうと思っています。
2019年6月に、「ASUHA」という場所をオープンしました。2階建てで、フェアトレード雑貨やヨガスタジオ、ギャラリー、さらには日替わりのASUHAキッチンというカフェがが入っています。
出店してくださっている方たちも、オーガニックマーケットや藤枝おんぱくでつながりができたんですよ。

――「官民連携で町おこし」という掛け声はよく聞きますけど、なかなか役所側が動いていくのは難しいですよね。

大きなお寺や神社の参道にお店が集まってできた、門前町ってあるでしょう。浅間神社とか久能山東照宮とか、参拝にくる人がたくさんいるから自然と町ができる。お店を出す側は、お寺や神社の境内には関係できないんですが、その外だったらいいわけでしょう。これと同じ理屈で、民間の立場では公園の中には関与できないけど、周りなら問題ないですからね。

――そういえば、スターバックスもありますね。あれも最近ですか?

そうですね。スターバックスは直接的な地域還元は大きくないですけど、逆にいえばスターバックス側は出店すれば利益があると踏んでいるということですから、できたときは安心しました。
公園も、お金を使うような場所があれば人が滞在するようになるんですよ。滞在時間が長くなれば、コミュニケーションも生まれる。

――今後の取り組みについて教えてください。

エリアとしての価値を高めていくのが今後の目標です。今、「RASORA」という仕組みを始めています。いわゆる商店街よりもゆるいつながりで、商店のオーナーや地主さんと一緒にこの地域の将来を考えようと。RASORAはRengeji Area Shop and Owners Allianceという意味です。

――今は、藤枝のことは好きになりました?

僕が嫌いだと思っていたのは、自分自身がここでやるべきこと、役割がなかったからだと思います。だから、今は好きですし、楽しいですよ。
ブームって急に盛り上がると急に冷えますから、じわじわと熱を上げていって、面白い人たちが地域を蒸しあげていくイメージでやっていきたいですね。

地元にずっと違和感を感じていたという大場さん。“好きにならないとつらいまま”という気づきで動いた結果、地元にも貢献できる働き方ができているのだと思います。きっと地元をネガティブにとらえている方も多いかと思いますが、大場さんの考え方で地元をとらえてみると地域活性化の糸口が見出せるかもしれません。
(文=深水央、写真=窪田司)