藤枝市のお茶産業を途絶えさせまいと、茶商6社、生産農家1社がタッグを組み生まれたのが、
藤枝市を拠点に活動する「TEA SEVEN」です。
国内にとどまらず、海外への販路拡大を視野に入れチャレンジし続ける若き茶商のひとり、
小野慎太郎さんの、お茶産業、そして藤枝に対する想いとは―。
―「TEA SEVEN」で取扱いのある「藤枝かおり」は、藤枝市で誕生した新品種のお茶だそうですね。
「藤枝かおり」は、日本で藤枝市にしか植わっていない茶の木。
この木からはジャスミンのような香りがするんですよ。これを普及させたい!という想いから、
4種の商品(煎茶、抹茶玄米茶、紅茶、玄米焙茶)を誕生させました。
バリエーションを持たせたのは、煎茶が好き、紅茶が好き…というさまざまな方の好みに合うように。
大変だったのは、この品種の独自性であるジャスミン香を消さない作り方を模索したところでしょうか。
ですが、「TEA SEVEN」は茶商の集まり。ブレンド技術や玄米の割合、
茶葉の焙煎加減などはプロですから、それぞれに委ねています。
人気のサブスクサービスは6社の茶商ごとに焙煎度合いの違いや特徴が出るので、
毎月違うスタイルのお茶が味わえて面白いですよ。
―そもそも「TEA SEVEN」とはどういった形態で活動されているんでしょうか?
後継者不足、荒廃茶園が増えているという現状を鑑みて、
「藤枝かおり」の販売を海外にも拡大していこうと、
6社の茶商と1社の生産農家が集まってできた団体です。
特徴的なのは、この生産農家は有機栽培を最初に行った茶農家であること、
そして6社の茶商については、茶の鑑定技術がものすごく優れていること。
プロの茶鑑定大会「全国茶審査技術競技大会」では何度も全国大会に行っているメンバーで、
多くが段の保有者です。そのため安心安全なのはもちろん、美味しいお茶を提供できるのが強み。
主にオンラインショップと、年間150万人が訪れる蓮華寺公園内にある、
和洋折衷な青いとんがり屋根が特徴の「とんがりぼう」(旧藤枝製茶貿易商館)で販売を行っています。
―なぜ、7社協同というスタイルに?
茶商は古くからあって、昔からライバルというか切磋琢磨してきた分、
協同で一緒に何かをすることができない業種だったんです。
でも私自身、協同という意識がどこかにあったんだと思うんですよね。
日本のマーケットも小さくなっていて、販路を海外にも向けたいという中では、
規模的に小さな問屋が個々でやっていても難しいですから。
あるとき地元で、一般の参加者100名ほどを集めて“利き茶ナンバーワン”を決めるコンテスト
「天下一闘茶会」の運営を主導したのですが、こんな大きなイベントができるのであれ
ば茶商の概念を覆して協同でやっていこう、販売流通も拡大していこうと20社ほどの茶商に声をかけて。
あとさき考えずに「やりましょう!」と言ってくれたのが、私を除く6社だったわけです(笑)。
―海外を視野に入れた同志7名が集って、「TEA SEVEN」が誕生したと。
海外展開でいうと、約5年前に藤枝市と台湾の企業が包括連携協定を結んだのをきっかけに、
台湾に向け販路を拡大中です。多いときで年4~5回は台湾に渡り、PR活動を行っているところです。
直近では、2017年から続くパリ唯一の日本茶コンクール「ジャパニーズティー・セレクション・パリ」にて、
200超の日本茶の中から藤枝かおりの玄米焙茶が銅賞を受賞するという朗報もありました。
―海外でも日本茶、藤枝茶が広く認知される嬉しいニュースです! では今後の抱負は?
藤枝市の茶園面積がどんどん増えて、生産の面でも後継者が出てきて…という青写真を描いていて。
ただそのためには、藤枝茶のブランド価値が認知され、
安くない価格で販売できるのが一番じゃないかと思うんですよね。
価値を上げるべく引き続き海外展開を視野に入れて、まずは台湾での地盤固めに力を注ぎたいなと。
今年で5年目となる「TEA SEVEN」をこの先も続けていけるよう、頑張りたいですね。
―藤枝かおりの木が日本で唯一育つという藤枝市。どんな街なんでしょうか。
お茶に関する面白い文化に「朝ラーメン」があります。茶商の取引は朝4時、5時と、ものすごく早い。
生産農家や問屋の方が、仕入れが終わったあとにラーメンを食べたことから、
藤枝は「朝ラーメン発祥の地」と言われています。
ほかにも、茶農家の5月は収穫時期で多忙なので、
3月の雛祭りの際に、端午の節句のお祝いも一緒にやってしまうんですよ。
藤枝はこうした茶農家ならではの風習が残っている地域でもあります。
行政も力を入れているからか移住される方も珍しくないですが、
穏やかでゆったりした時間が流れているのが藤枝市。
そこはこれからも変わらないでいてほしいですね。
ライター:左藤緋美