【仕掛け】伊豆下田の「旧町内」を盛り上げる!『コミュニティスペース羽衣』のかろやかな挑戦。

通過する町

伊豆下田は、古くからの港町。幕末、日本で最初に海外に向けて開かれた「開国の町」として知られています。海を介して多くの人が行き交い、さまざまな出会いとつながりを生んできた町は、現在も金目鯛や伊勢エビなどの名産品、美しい海岸や豊富に湧き出る温泉など、さまざまな観光資源が訪れる人々を惹きつけています。

そして、かつては多くの商店が軒を連ね、町の中心としてにぎわいを見せていた「旧町内」と呼ばれるエリア。ここには港町として栄えた時代の商家や蔵が数多く残っており、その建物を引き立てるのが、白と黒の壁土が碁盤の目のように交差する、美しい「なまこ壁」です。旧町内には、下田の風景を色濃く印象づける「なまこ壁」の美しい格子模様を残す蔵や商家が多く残っています。また近年建てられた金融機関の建物なども、この「なまこ壁」をモチーフとして採用しており、町全体をレトロでシックな雰囲気で包んでいます。

また、毎年8月に「下田八幡神社例大祭」が行われるのも旧町内です。江戸時代からの由緒あるお祭りで、一番の見ものは太鼓。別名「下田太鼓祭」とも言われるこの太鼓は、大坂夏の陣で勝利を飾った徳川勢が大坂城に入場する際の陣太鼓を模したものだといわれます。

そんな歴史と伝統のある旧町内ですが、現在では「人が通過する町」になりつつあります。それは、旧町内が交通の中心である伊豆急下田駅周辺と観光客が多く訪れる「ペリーロード」のちょうど中間にあたるため、せっかく市外から観光で訪れてくれた人たちが、旧町内の良さに触れることなく通り過ぎてしまう、というのが現状です。

そんな状況を打破しようとスタートしたのが、任意団体「ゆるいず」が中心となった「下田旧町内みんなのふるさと化プロジェクト」です。

『下田旧町内みんなのふるさと化プロジェクト』は、旧町内をひとつの家と見立てて、訪れた人たちが「ただいま!」と帰ってきたくなる、もう一つの居場所に思ってもらおうというのが狙い。そのひとつの成果として誕生したのが、『コミュニティスペース羽衣』です。


コミュニティの交わる場を

旧町内に増える空き家を活用することで、地域の人たちと外から来る人たちが交差する。イベントを開催したり、寝泊まりしたりしながら、旧町内を歩く人たちの拠点になる場所。それが『羽衣』です。
物件は旧町内の中心部、三丁目通りにある築50年以上を経た二階建ての一軒家。改装費用の一部はクラウドファンディングを募り、196人の方から計258万3,800円という、目標額を超える支援が寄せられました。そして2019年8月、いよいよ運営開始の日を迎えたのです。

▲クラウドファンディング時の様子

『羽衣』の特色は、「一口畳主」というシステム。月4,000円の会費で「畳主」になると館内の一部を自由に使うことができ、宿泊も一泊あたり1,000円で可能。また、法人や団体向けに「大口畳主」という仕組みもあり、こちらは所属する会社の社員や団体のメンバーが同様の特典を受けることができます。

現在、『羽衣』の1階はシェアスペースとして活用できる土間と板の間、2階が宿泊スペースの和室となっています。
その1階に常駐しているのが、「ゆるいず」の共同代表の佐藤潤さんです。佐藤さんはデザイン事務所を経営するかたわら、プロジェクトオーナーとして『羽衣』に関わっています。

――いよいよ始動した『羽衣』ですが、今は佐藤さんが主に常駐している形ですか?

いちばん多くいるのは私ですね。今はここでデザイナーとしての仕事もできるように、環境を整えました。常駐するようになると、地域の人、外から来た人、いろんな人の動きがよく見えるようになりました。
『羽衣』は、4人のプロジェクトオーナーそれぞれが、仕事のサテライトスペースとしながら、運営に当たっています。私のほか、着物レンタル・着付け「下田着物レンタルHagoromo」の武田歩さん、台湾式足つぼマッサージ「あしもあ・かのん」の末吉香乃枝さん、「すきまソーシャルワーカー事務所」の中村仁美さんがプロジェクトオーナーとして、それぞれ『羽衣』で事業を行っています。
一口畳主以外にも、「まちだな」と名付けた小商いボックスを設置しています。半年間5,000円のレンタル料で、羽衣に設置したディスプレイボックスに商品を置くことができるシステムです。商品の管理や販売は私たちが請け負って、売上から手数料をいただく仕組みです。

――イベントも開催しているようですが、その反応などはいかがだったでしょうか?

10月下旬、旧町内にある老舗の帽子屋さん「村野帽子店」さんの帽子を展示・販売する「村野帽子展」を開催しました。村野帽子店さんは、店主の松永さんが帽子ひとつひとつを昔ながらの足踏みミシンで手作りしていて、なんともいえない味わいがあるんですよ。でも、お話を聞いてみると、商売としては週にひとつ売れるか売れないか。
それが、『羽衣』での一週間の展示期間で30個も売れたんです。来てくれる方もみんな「これは面白い」と話していて。松永さんも私たちも驚きました。

――旧町内、僕もちょっと見て回りましたけどすごく魅力的な街ですね。「なまこ壁」もきれいですけど、個人的にグッと来たのは古い看板。お店の正面に切り文字で店名や商品名が入っている看板って、最近なかなか見なくなりましたよ。

言われてみれば、そうですね。ああいう看板を見ていると、この町で昔はどんな商売が盛んだったかよくわかります。私のうちはもともと看板屋だったんですが、三代目の父が「もう先がないから」って辞めてしまったんですよ。
地域のなかで普段から暮らしていると、周りにあるものがどんなにいいものかってなかなかわからなくなってしまうと思うんです。例えば村野帽子店さんの帽子や、看板みたいにね。人を呼び込める資源がたくさんあるのに、それに気づかないのはもったいないですよね。

――今後、どのような方向を目指していきますか?

私たちにできることは、いわば街を「再編集」して、その魅力をハッキリわかるようにすること。そのための場所として、みんなの力で『羽衣』をもっと魅力のある拠点にしていきたいですね。
今、「一口畳主」は4名。これから旧町内の関係人口を増やすためにも、少しずつ畳主を募りたいですね。

「人が通過する町」になりつつあった旧町内に誕生した『コミュニティスペース羽衣』。まだオープンから間もないですが、イベントの内容などをおうかがいすると確実にこの地域のハブとなっていました。『羽衣』のような場は、その地域にゆかりの無い方々(特に移住検討者等)にとっては重要なコミュニティの入り口になるので、地域活性の手段のひとつになってくると思います。

ちなみに、『羽衣』のオーナーは静岡市を中心に他拠点居住を実践している静岡移住計画のコアメンバーでもあります。『羽衣』の他にも、空き地を活用したシェアパーキング『M405パーキング』を展開し、街中に人が来やすい仕組みを作ったり、空き家をDIY賃貸として格安で貸し出すなど幅広く活動しています。
今後は、これらの拠点を面展開していき、旧町内全体を盛り上げて行くとのことです。下田に移住したい人や、お店を開きたい人などから常に相談があるようなので興味のある方は是非『羽衣』まで問い合わせてみてください。

【コミュニティスペース羽衣】
https://www.shimoda-hagoromo.com/
静岡県下田市2-2-6
Mail:smd.hagoromo@gmail.com

【M405パーキング】
https://www.facebook.com/M405P/