静岡市駿河区に本社を構える「栗田産業」は創業130年余りの歴史をもつ鋳物(いもの)メーカー。
ロボットや工業製品に使用される鋳物製品にとどまらず、ビアグラスや箸置きなどを扱う自社ブランドを
立ち上げた取締役副社長の栗田圭さんに、ものづくりや静岡への想いをお聞きしました。
―鋳物のぐい呑みなどを扱う自社ブランド「重太郎」は、なぜ生まれたのでしょうか。
そもそも「鋳物」って聞きなじみがないですよね。金属を型に流し込み成形して作る
金属製品のことなんですが、ロボットや工業製品など多くのものに使われているにも
かかわらず認知度が非常に低い。本来は身近なはずが、
遠い存在になってしまっているんですね。
―鋳物自体の認知度を上げるために自社ブランドを?
それだけではありません。当社が出荷した工業製品は産業用ロボットになり、
それが海外に渡って、世界有数のメーカーで電気自動車を作る。
グローバルに社会貢献をしている一方で、自分や社員が住む静岡には
まったく貢献できていないんじゃないかと…。
そこで今から7年ほど前、一般の方に向けた自社ブランドを立ち上げ、
生活にまつわる商品の製造販売をスタートさせました。
創業者の高祖父がそうであったように、静岡の鋳物産業の発展に貢献したい。
創業者の名「重太郎」と「しずおか鋳物」を冠したのには、そんな想いもあります。
―地元のホビーメーカー「タミヤ」とコラボした “ミニ四駆の箸置き” には驚きました!
何か静岡らしくて面白いものを作ってみたい、独立してそれと分かる形のものはないかと考えたときに、
タミヤさんのミニ四駆が浮かびました。プラモデル好きという私の趣味が
影響している可能性もありますが…(笑)。
そこから、ホビーの町・静岡を象徴するタミヤさんと一緒に“静岡を盛り上げていきましょう!”と、
構想から約2年半をかけ、ミニ四駆の箸置きが誕生しました。
ご覧になった方によるSNSでの拡散やタミヤさんでの販売もあって話題となり、
購入時に「子ども時代に遊んでいた車種を20年ぶりに見て懐かしくて」「昔こうやって遊んでいました」
なんてコメントをくださる方も多くて…。本当に嬉しかったですし、
私も社員も、いつもと違った喜びとやりがいを感じることができました。
―「重太郎」の商品は、日々の生活の中で使える身近なものが多いですね。
少しでも鋳物を身近に感じていただきたいのと同時に、静岡の良さをより引き出せるものは何か?
という視点も大切にしています。
静岡は「吟醸王国」と呼ばれるほど酒蔵も多く、またクラフトビールの生産量は日本でも上位を占めます。
もちろん主役は美味しいお酒や食材で、「重太郎」のぐい呑みやビアグラスはあくまでその良さを引き出し、
引き立てるための道具。「重太郎」の商品がお役に立てるシーンがあれば嬉しい、その一心ですね。
―ほとんどの商品に錫(すず)を使用されていますが?
錫(すず)という金属の作用によって、お酒がまろやかに変化するんですよ。
個人的にはお酒よりお茶のほうが、味わいの変化をダイレクトに感じます。
飲み比べると分かるんですが、本当にうまみや余韻が変わる!
これはぜひ皆さんにも体験していただきたいですね。
―本社をリノベーションし、今年1月に「工房併設のショールーム」としてオープンされました。モダンな店構えも特徴的ですね。
築80年の古民家を生かし、日本の良さを引き出しつつ現代風にアップデートした建物にしたくて。
工房併設という点も重視しました。「重太郎」のぐい呑みは5,000円台と、決して安くはない価格です。
ただ、物の価値は値段だけではないと思うんですね。
太古から続く製法で、職人が手間ひまかけて丁寧に形にしていく様を間近で見て、触れる。
それで初めて価値として認めていただけるのかなと思いますし、
“ものを作る面白さ”をあらためて感じる「体験の場」にもしたい。
そう考えて、ワークショップも可能な工房併設の形を採りました。
―鋳物の体験は本当に貴重だと感じます。ぜひ今後の構想についても教えてください。
鋳物って、ミニ四駆から工業製品のロボットまで本当に振り幅があって面白いんですよ!
だから今後も鋳物の可能性を広げていきたい。そして静岡のことももっと盛り上げていきたい。
例えば鋳物を使ったお酒やお茶の試飲会などの体験を通じて、静岡と鋳物の両方の良さを
伝えることができると思うんです。
「静岡の鋳物屋」だからこそ持てる何かで、静岡を盛りあげたいという同志の方々と
この先もいろいろな可能性を探っていきたいですね。
ライター:左藤緋美