【移住者インタビュー】静岡から、日本全国、そして世界へ通用する料理を。

「予約のとれない名店」として、県外からのお客様も多く訪れる人気店を営む
「天ぷら成生」店主・志村さん。
静岡に移り住むことになった経緯や料理にかける思い、今後の展望についてお話を伺いました。

―ご出身は神奈川県だそうですね。静岡に移り住んだきっかけについて聞かせてください。

東京農業大学を卒業したあと、オーストラリアへ留学していました。
そこで日本食のレストランでアルバイトしたことが、料理の道に進むきっかけになりました。
僕はサーフィンが大好きだったので、日本に帰る時も「絶対に海に近いお店にしてください!」って、
オーナーにお願いしたんです(笑)それで帰国後は、焼津の割烹料理店で働くことになりました。

調理の専門学校を出たわけではなかったけれど、いざやりだしたら料理は奥が深くて、
気づけばどんどんのめり込んでいきましたね。
中でも焼津の老舗鮮魚店「サスエ前田魚店」の前田さんとの出会いは大きかったです。
魚の締め方から熟成法、調理法など、今でも一緒に研究させていただいています。

―独立にあたって、天ぷらのお店を開業された理由は何でしたか?

ひとつは、天ぷらという調理法が奥深くて面白いからです。和食は本当に様々な調理法があります。
下積み時代は焼き場、煮方から板場と、それぞれの調理法を修行していくのですが、
最後に任せていただけるのが天ぷらなんです。
天ぷらは総合的な火入れの技術が求められるので、焼きも蒸しも脱水も、
バランス良く取り入れる必要があるんです。
素材やその日の気候によっても揚げる時間・手順などが変わってくるので、
一度として同じ調理をしていることはないんですよ。

それからもうひとつは、経営的な視点になりますが、調理器具や器が少なくて良いので、
開業しやすいということですね。通常はコンロも鍋やフライパンも複数種類が必要ですが、
天ぷらは大きな揚鍋があればこと足りますし、器の種類も少なくて良いんです。
実際にフレンチのシェフがうちの店を見に来てくださったことがあるのですが、
調理器具の少なさに驚いていました。

―お店を鷹匠から現在の丸山町に移転されて、変化したことはありますか?
また、こだわっているポイントなどお聞かせください。

まず第一に、ロケーションが最高になりましたね。
「割烹旅館 喜久屋」さんがかつて店を構えていた趣ある庭園は、
新緑から紅葉まで、季節によって表情が変わります。
それから、広くなったことで一部屋全てをワインセラーにあてることができ、
より美味しいお酒を提供できるようになりました。
今はコロナ禍ということもあって行えていませんが、茶室での体験も今後行う予定をしています。
天ぷらを召し上がっていただいたあと、茶室で庭園を眺めながら、美味しいお茶を飲んでいただく。
ここでの体験全てにこだわって設計していますよ。


▲店舗外観

▲庭園風景

―静岡の良い点と、反対にもっとこんな風に変わったらいいのにと思う点について聞かせていただけますか?

どの方もおっしゃるかもしれませんが、やっぱり自然が豊かなことですね。
海も山も近く、それでいて東京など都心からのアクセスも良い。
台風が直撃しないから、作物が育ちやすいという利点もありますね。
特にコロナ禍を経て、地方の強さを改めて感じています。

東京のお店の方の場合は、全国各地から野菜や魚などを仕入れる必要があるけれど、
僕らはすぐそばで新鮮な食材を手に入れられる環境がある。
農家さんと直接話したり、自分で収穫した野菜を揚げてお客様にお出ししたり・・・
これは都心部ではできないことですよね。
実際にこのお店にいらっしゃる方の8割は県外の方で、関東や関西はもちろん、
北海道から沖縄まで、全国各地からいらっしゃるんです。

今のような状況になる前は、外国の方も多くいらっしゃっていました。
そんな方々が口を揃えて、「静岡の食材を食べるために来て良かった」って言ってくださるんですよ。
こんなに嬉しいことはないですよね。
それと、もっとこうしたら良いのにと感じることは、情報発信ですね。
これだけ豊かな環境や魅力に溢れているのに、あまり上手にPRされていない印象を感じます。
もっともっと一人ひとり、それぞれの立場で情報発信を行っていけると良いですよね。

―最後に、志村さんの今後の目標やチャレンジしたいことなどあればお教えください!

このお店を通じて、世界中の人に静岡に足を運んでもらうことですね。
静岡の方は農家さんも漁業の方も、すごく良い仕事をしているのに、その実感が薄い方が多いんです。
だから僕の店を通じて、有名店のシェフも買いたいと思う食材であることに気づいて欲しいなと思いますね。

それから、料理人の間では「東京に行って修行する」なんて文化がありますけど、
静岡という土地から、一流の料理人をもっと増やしたいと思います。
天ぷらの技術を学びたいという人がいたら受け入れますし、
静岡から日本全国や世界で通用する人が増えたらもっと良いなと思いますね。

こだわりと未来への夢をたっぷり語ってくださった志村さん。
その目には、これまで様々な目標を叶えてきた自信と静岡への想いが溢れていました。
これからも自身のこだわりを貫きながら、静岡のため、
そして料理人の発展のために、邁進していかれることでしょう。