日経新聞に取り上げられるなど、神奈川県のスタートアップ界隈では広く知られている村田茂雄さん。東京に本社を置く企業の横浜オフィスに勤務し、ベンチャー企業の支援に奔走されています。そんな村田さんが住んでいるのは静岡市。静岡に移住し、天職といえる現在の仕事にたどり着くまでには、さわやかな笑顔の奥に秘めた強い意志と情熱がありました。
誰かのためになることを全力で
――村田さんは静岡から関東に通勤されていると伺いました。ご出身が静岡ですか?
いえ、私は神奈川生まれで、長野の信州大学を卒業して4年半は銀行で働いていました。その後、母が静岡で一人暮らしをしていたため静岡に引っ越して、静岡の金融機関に転職。そして5年前に現職で採用となり、今は静岡から横浜のオフィスに通っています。
――地元の金融機関からわざわざ通うことになる大手監査法人に転職されたのは、なぜでしょう?
「誰かのためになりたい」という想いがあり、銀行ならそれが実現できると考えて就職しました。しかし仕事にやりがいはあったのですが、金融機関での業務に限界を感じてしまったんです。
今はそうではないですが、当時の金融機関の融資というのは、過去の実績を何よりも重視します。社長が「これをやりたい」と言っても、現在から過去にさかのぼって不安要素があれば融資はできない。過去で判断すると、将来の可能性を見いだせても支援ができないことにジレンマを感じていました。その手堅さが金融機関を支えていますので悪いことではないのですが。
ただ、私はもっと会社の将来を応援していきたい、いいビジョンを描いていたら全力でサポートしたいと思ったんです。コンサルタントという職業ならそんな仕事ができると分かり、ご縁があって現職に転職することを決めました。
――さわやかな表情とは裏腹に熱い想いですね。お仕事の内容はどういったものなのでしょうか?
ざっくり言うと、神奈川県でチャレンジする経営者を応援するのが私のミッションです。今は特にベンチャーを中心にしています。ベンチャーというのは、今まで世の中になかった商品やサービスなどを生み出す会社こと。皆さん、前例も答えもないビジネスに、知恵を絞って挑んでいます。そこが本当にすごいと思っていて、私は彼らが成長できるようにあらゆる支援をしています。
――ベンチャーの支援は、知識や経験、人脈などあらゆる力を必要とされそうですね。村田さんはどんなことを大切にされていますか?
「答えは社長の中にしかない」と思っています。社長がどうしたいのかをしっかり把握して、現状とのギャップからロジカルに今のベストを探り、行動して、また考えて行動して、というサイクル、いわゆるPDCAを回しながら、社長と一緒に知恵を絞っています。何よりも社長の思いやビジョンが大切だと考えています。
――これまで何人くらいの方を支援されてきたのでしょうか?
金融機関のときから数えて15年で1,000人以上の経営者と接してきました。
――1,000人ですか、すごいですね。
経営者と言っても一人ひとり状況や想いが違って、同じ仕事はありません。ただ、15年の経験の中で、皆さんに共通してお役に立てそうな考え方などが分かってきました。それをもっと広くお伝えして、ひとりでも多くの人を応援したいと思い、つい先日、著書「起業アイデア3.0」(秀和システム)を出版したところです。
「起業のためには行動が大事」とよく言われますが、行動できない人はその人自身の問題よりも、そもそも自分のアイデアに問題があることが多いと思っています。チャレンジすることを躊躇されている方が、この本を読んで、ヒントを得て、一歩踏み出してもらえればと願っています。
――本という形なら、どこにいても多くの人に読んでもらえますね。
そうなんです。起業したいと思ったとき、住む場所や働く場所などによって、どうしても情報格差が生じますし、その情報格差によって事業の成長も変わってきます。起業を志す人は地方でもどこにでもいて、地域間で人の能力の質に差はないのに情報格差によって不利になるのはもったいない。そこをできる限り解消したいと思って本を書きました。
境目のないスタイル
――コンサルタントという仕事のやりがいはどんなところでしょう?
ありきたりですが、やはりお客さんに喜んでもらえるとうれしいです。「村田さんのおかげで」と言ってもらえると、やっていて良かったなと改めて思います。また、ベンチャー支援について言えば、将来の世の中を変える可能性のある、でも現段階ではあまり日の目をみていない商品やサービスに価値を見出して支援していく、将来の可能性を信じてサポートすることにやりがいを感じます。
――静岡に住み、関東に通勤されることのメリットはありますか?
静岡から毎日、横浜や東京に行って仕事をすることは、私が望んでいる地域の情報格差をなくしていくことに繋がると思っていまして、その役割を意識して通勤しています。もちろん、出生地である神奈川県に思い入れもあります。
横浜や東京に通うのであれば静岡市はちょうど良いです。通勤はドアtoドアで1時間半くらい。同僚は毎日満員電車で同じ時間をかけて出勤していますが、私は静岡から新幹線ですので混まずに座れますし、車内で仕事をしたり本を読んだりして、移動時間も有効に活用しています。今の仕事が充実していて、仕事とプライベートの境目があまりなく、充実した生活を送っています。
私自身は、どこに住んでもいいと思っていまして、静岡市が生活拠点であることに満足しています。きっかけは、たまたま母が静岡にいて、妻の実家も静岡だから、ここにいますが、近所にすごく好きなラーメン屋やカレー屋があって、妻と頻繁に通っています。ここに住む理由はそれだけでも充分。自分なりの満足ポイントがあればいいと思うんです。人柄で言うと静岡の人はおっとりしているのも私には合っていていいですね。
――最後に、これからの目標を教えてください。
起業家界隈をもっともっと盛り上げて、チャレンジしやすい世の中にしたいと思っています。そのためには、行政の枠組みを越えて、例えば県や市が連携していくことも大切ですし、社会が寛容であってほしい。以前の日本は、一度失敗したら立ち直りにくい社会でしたが、最近はそうじゃなくなっていると感じます。一度就職した会社に定年までいるというモデルが崩れてきている中で、転職が前向きに捉えられて、失敗してもそれが評価される雰囲気も出ていました。
また、クラウドファンディングや無料や定額で使えるクラウドサービスも増えてきており、チャレンジしやすい環境が徐々にできてきていると思います。その環境をもっと作っていきたいです。
私はこの地に根付いて、これからも誰かのチャレンジを精一杯応援していくつもりです。
「たまたま静岡だった」という村田さんですが、静岡だからこその時間の使い方や考え方で、仕事の質は下げないまま、充実したワークライフバランスの様子を垣間見ることができました。
(文=佐々木恵美、写真=窪田司)