2022年の「未来の食卓アワード日本缶詰大賞」で
優秀賞を受賞したツナ缶「とろつな」。
生みの親は、ツナ缶製造シェアが97%を誇るツナ缶大国・静岡にある
創業70年以上の飼料メーカー「伊豆川飼料」でした。
養鶏用飼料や肥料を製造する会社がツナ缶を作った背景を、
取締役の伊豆川剛史さんにお聞きします。
―飼料メーカーである伊豆川飼料さんが、ツナ缶を作ろうと思われたのはなぜでしょうか?
静岡県は全国有数のマグロの水揚げ量を誇ります。
当社はマグロの解体時に出る食べられない部分(加工残渣)を有効利用し、
養鶏用飼料や肥料を作ってきました。
お茶やミカンに使うと美味しくなると、昔から静岡の農家さんが大事に使ってくださっている肥料です。
でも同じ静岡に住んでいても、魚を原料とする肥料が使われていると知らない方も多い。
この循環…つまり、静岡のツナ缶とお茶やミカンが実は繋がっている、
そしてどれも美味しくて素晴らしいものなんだ!ということを、
ツナ缶を通じて知っていただきたいと思いました。
―「未来の食卓アワード日本缶詰大賞」では、この“静岡の循環を伝えるツナ缶”というユニークさも評価されましたね。静岡はツナ缶の生産量が全国一位だとか。
水産加工業が盛んな静岡は、ツナ缶製造シェアが97%とほぼ独占状態です。
にもかかわらず、ここ10年で当社に入る加工残渣の量が減ってきた。
調べると、魚を加工する量が減っている、
つまりマグロの解体をする人自体がいなくなってきたと知りました。
11年くらい前から、海外で解体したマグロの身だけを輸入し、
それを日本で缶詰に加工する会社も増えたんです。
―なぜそういったことが起こるのでしょうか?
ツナ缶は3、4個セットで特売になりやすく価格を上げにくいため、
海外で解体しコストを削減するわけです。
これを放っておいたら、加工残渣を扱う当社はおろか、
静岡がもつ“シェア97%”も維持できないと感じました。
ならば、1個100円じゃないツナ缶を作ったら…。解体も自社でできるようになるし、
みんなもう少しハッピーな企業活動ができるんじゃないか!?と。
そのときは勢いだけでツナ缶づくりに邁進して(笑)。
―勢いでオリジナルのツナ缶「とろつな」「しろつな」が生まれたとは!
ただ、もともと静岡のツナ缶のポテンシャルが高いことはわかっていました。
いつだったか、東京のお客様に地元メーカーのツナ缶をお土産に差し上げたことがあって。
後日お客様から「とても美味しかった。400円くらいするんじゃないか」と言われたんですよね。
実はこのツナ缶、地元では100円ほどで売られているもの。
値段以上の価値があるとその時確信したんです。
この経験から、スーパーではなくプレゼントなどで手に取っていただけるツナ缶、
というコンセプトで作ろうと。
―「とろつな」「しろつな」を召し上がった方からの感想は?
「とろつな」は通常イメージするツナ缶とは違い、刺身が一枚一枚入っているような形状で、
とにかく柔らかくて美味しいという感想が多いですね。
逆にツウの方に支持されるのは、しっかりした味と食感の「しろつな」。
食べ比べも楽しいと思います。
―2023年2月から、一般の方向けの家庭菜園用肥料「つなごえ」も発売になりました。
一般の方にも、肥料でこれだけ野菜の味が変わるんだ!というのを体感していただきたくて。
ツナ缶と同じく、この静岡の循環に興味をもっていただいて、
そこからお茶やミカンも味わっていただけるようになればと。
いま農水産業が置かれている環境はかなり厳しく、少しでも価格が上がるとニュースになる。
その意識を変えたい想いが私にはあります。
この値段なら納得だねと思っていただけるような、生産者側の見えない苦労や努力、
手間暇かけて作っているというメッセージをちゃんと発信していきたい。
そして、生産者側が自分たちの商品に自信をもって販売できるようになるというのが、
最終的なゴール…というか、私の願いなんです。
―とても強い想いや目標をお持ちであることが伝わってきます。
実は当社のツナ缶、半年ほど全然売れなくて(笑)。
ある日私の想いにひどく共感された方が、知り合いの方をどんどん紹介してくださった。
見返りを求めないのは県民性でしょうか。
だから今度は私がみなさんに返していく番かなと、勝手に思っていて。
静岡では各メーカーがいろいろなツナ缶を作っていますが、
メーカーごとにまったく味が違って、本当に全部美味しい。
だから当社以外のツナ缶もたくさん食べ比べに来てほしい。
そうすれば、魚に関わっている人、当社の肥料を使われている農家さん、静岡の人みんなが幸せになる。
ツナ缶を2、3個買っていただくだけで、すごく潤うと思うんですよ。
魚とお茶とミカン、静岡に来て味わっていただけたら最高だなって思います!
ライター:左藤緋美