10年ほど前に暮らしていたカナダ・バンクーバーで、
ひょんなことからクラフトビールの世界に足を踏み入れた草場達也さん。
インポーター(輸入業者)かつ、クラフトビール専門店「Beer OWLE(ビア アウル)」の
オーナーでもある草場さんが感じる、静岡のクラフトビールと街の魅力とは-。
―「Beer OWLE」で扱うクラフトビールは、常に100種類以上(!)と聞きました。
「Beer OWLE」は、クラフトビールのインポーターである当社(BC BEER TRADING)の直営酒屋です。
その強みを生かして、日本では当社としか取引のないカナダ・ブリティッシュコロンビア州や
海外の珍しい銘柄も手に取っていただけるのですが、一番大事なのは、
さまざまな品揃えがあって地元の方が手に入れたい商品があることなんです。
―地元に根付いた専門店でありたい、と。
極端なことを言えば、当社が買い付けた銘柄が並ばなくてもいい、とも思っています。
もちろん、注目度の高いスタイル、今なら「Hazy IPA(ヘイジー・アイピーエー)」や
「サワービール」も置きますが、なるべくスタイルも偏らず、
初心者からツウな方までが欲しているビールを置きたい。
そして、黙っていても売れるビールより、「これは売らなきゃいけないな」と
駆り立てられるビールを売っていきたいですよね。
―それはどういったビールなんでしょう…?
質の良さプラス、“醸造所の想いが強いビール”です。
一回のできあがりが100ケースにも満たない小さな醸造所から「この店に置きたい」と言っていただけたら、
それはもう「頑張って売りたい!」って思いますよね。
醸造所はビールを作るのが仕事で、それを流通させるのは我々の役目。
「Beer OWLE」がTシャツやキャップといったアパレルも展開しているのは、
人を呼ぶためのキャッチアップのひとつでもあるんです。
そうして来ていただいたお客様には、オートメーションじゃないサービスを提供したい。
そこは大切にしています。
―では、草場さんにとっての「静岡のクラフトビールの特徴や魅力」というと?
静岡は全国的に見ても醸造所の数も多く、質も非常に高いと言えますね。
静岡には、トップランナーで居続けている「ベアード ビール」に、
数年前にできた「WEST COAST BREWING」といった、古参から新鋭までがちゃんと揃っているのも魅力。
文脈がしっかりあって、クラフトビールの文化が醸成されてきているように思います。
都市部に醸造所があることで、ビールやその作り手のことを身近で見たり感じたりもできて、
それが味にも直結していく。これってすごく面白いことなのかなと感じますね。
―クラフトビールを愛してやまない草場さんですが、インポーターになったきっかけは?
それが…もともとはまったく別の仕事でカナダのバンクーバーに滞在していて、
のちに当社を一緒に立ち上げた塚田とはそこで出会ったんです。
彼は今バンクーバーで醸造士をやっていますが、当時は勉強のために
ホームブルーイング(家庭でのビール醸造)をしていて、「作ったら捨てる」と言う。
それならと、3日に一度のペースで貰いにいくようになって…。
とにかくとても美味しくて、これが日本でも飲めたら!と思ったのが大きかったですね。
―あまりの美味しさに、ブルワリーに通い詰めたそうですね!
当時はクラフトビールのブルワリーにアジア人がいること自体が珍しい。
なんだあいつは?と話題になったらしく(笑)、結果、ブルワリー関係者と仲良くなったり、
帰国後は別案件でインポーターとして指名を受けたりと、クラフトビールとの縁が深まっていったんです。
ビールを作りたい、広めたいという人が多い中、仕事にするというよりも、
ただ飲んでいただけの身としてはちょっと申し訳ない気持ちがありつつも、それを払拭すべく、
とにかくひたすら勉強を重ねました。
いま業界内で“それなりに詳しい奴”として見てもらえていることは…よかったな、という想いでいますね。
―海外や都心での暮らしを経て、静岡は草場さんの目にどのように映っていますか?
心地よさを感じていたバンクーバー同様、海と山がある。
そこに都市機能もちゃんとあるのが静岡。そういう地域は、地場産業が元気なんです。
資源があるから、そこにいる人たちもエネルギーのある方が多くて、特色のある方もいる。
経済合理性がなくてもここに住みたいと思える街で、これは都心暮らしでは得られなかった想いですね。
東京や名古屋、大阪にも行きやすく、何気なく入ったお店の昼食がすごくおいしいっていう(笑)。
ぜひ何も考えずに、ふらっと遊びに来てほしい。静岡はそんな場所です。
―今後の展開もお聞かせください。
静岡市のビールサプライヤーを集めた当社企画のフェスを、開催予定です。
専門店ではなくてもクラフトビールが買える。
それを実現するためには、流通業者としてまだまだやるべきことがたくさんあるなと思っています。
ライター:左藤緋美