【お店】おでんを通して静岡の魅力とコミュニティを知る入り口に。(おでんや おばちゃん)

だれかに紹介したいお店…それは提供される商品の質はもちろん、中で関わっている“人”に魅力があるのではないか。そんな想いからこのシリーズではお店の中の人にフォーカスしつつ、お店を紹介していきます。

新しい文化の発信拠点に

静岡といえばおでん!……というイメージが全国に広がったのはいつ頃のことだったでしょうか。静岡駅の駅ナカから駅南の飲食店街、そして青葉通りの「青葉横丁」「青葉おでん街」と、静岡の街には「静岡(しぞーか)おでん」を看板に掲げるお店が所狭しと並んでいます。

黒い煮汁に浮かぶ黒はんぺん、皿に取って削り節粉や青のりを食べていただくお味はまさに絶品。全国においしい鍋物は数あれど、この静岡おでんは他では味わえない絶品です。

その静岡おでんを、静岡の街の象徴・駿府城公園で味わえる『おでんや おばちゃん』が2018年にオープン。通年営業・定休日なし、しかも午前10時から営業とあって、老若男女を問わず幅広い年齢層に愛されています。
でも、なぜ公園におでん屋さんなんでしょう。ここはぜひお話を聞いてみたい……ということで、店主の杉浦孝さんにお話をうかがいました。

会話が最高のつまみ

――城跡の公園におでん屋さんというのは珍しいですね。

「静岡おでんの会」という集まりのなかで、「どこか公園のようなところに、おでん屋があったらいいねえ」という話はずっとありました。他の公園でという話もありましたが、やはり観光客も多い駿府城公園がいいだろうと。観光のついでに静岡の名物であるおでんを楽しんでもらいたいですからね。

――観光地である駿府城公園にあると観光客も気軽に立ち寄れますね。駿府城公園のお店はお昼から営業ということでお子さん連れのご家族でも行きやすいですね。

そうなんです。気軽に“駿府城公園におでんを食べに行こう、ついでに史跡も見ていこう”というかたちにしていきたい、という話を「静岡おでんの会」のメンバーを前に熱く語ったわけですよ(笑)。それを「おでんの会」のメンバーがきちんとした文書に整えてくれて、市に申請したわけです。
ちょうど市の方でも、民間の力を活用した公園の利用について新しい試みをしたいと考えているところだったようです。以前この場所には、公園の売店と食堂があったんですが、この駿府城公園にくる方はやはり県外や市外の方が多いので、朝からでも静岡のおでんを食べてもらいたいですよね。

お店に来ていただくお客さんは、県外・市外の方がほとんど。もともと、夕方16時から営業している「青葉横丁」のお店でも県外や市外の方がほとんどですが、ファミリー層は少ないので幅広い層に静岡おでんを楽しんでいただけるようにしていきたいと思っています。

おでんだけでなく、静岡にゆかりの無い方々にも楽しい時間を過ごしてもらおうと、いろいろと工夫をしています。たとえば、県ごとに一冊ずつノートをつくって、メッセージを書けるようにしています。自分の関係のある県から来たという書き込みを見ると、なんか楽しいじゃないですか。最近は海外の方も多いので、国ごとのノートも追加しています。

――たしかに自分の出身地のノートとか見たくなりますね。そういえば、なぜ「おばちゃん」という店名なのですか。見たところ、杉浦さんは「おじちゃん」ですが……。

お店に立つのは、僕以外はほとんどおばちゃんですから(笑)。最年少で68歳かな。もともと静岡のおでん屋さんは、B級グルメブームが来るまではおばちゃん一人で常連だけを相手にやっているようなお店がほとんどだったんです。
それがブームの到来で急に県外からの人も増えて、なかなか対応しきれない状態もあった。今では観光地化が進んで、経営してるおばちゃんがパートのおばちゃんを雇って、忙しくお店を回しているという状態のところもあります。
うちでは、駄菓子屋さんにいるおばちゃんのイメージでお客さんに声をかけてくれ、っておばちゃんたちにお願いしています。これが若いお兄ちゃんやお姉ちゃんだと、どうしても他の色がつく。でもおばちゃんなら、会話のハードルは低いでしょう。
そういえば、ここで働いているおばちゃんにも、神奈川から静岡に移住してきたスタッフがいますよ。もう72歳ですけど、元気ハツラツですよ。ぜひ会いに来てほしいですね。

▲青葉横丁店内の様子

――今後、目指していきたいことはありますか?

おでんを通じて、静岡を面白いと思ってほしいですね。静岡って「立ち飲み」の文化があまりないんですよ。最近立って食べるステーキ屋さんとかありますけど、静岡の人は座ってじっくり飲む。それは、ゆっくり話をしながら飲むからなんですね。おでんもですけど、静岡では会話が一番のつまみ、おみやげになるんだと思います。

それと、子どもたちの世代にもおでんを通じたコミュニケーションを広げていきたい。地元の小学校から、「おでんを学ぶ校外学習」ということで120人の小学生がお店に来ました。そこで一人一本ずつおでんを食べてもらう。すると、その子たちの何人かは駿府城公園に来るたびに思い出すでしょうし、お父さんに「あそこで黒はんぺん食べたんだよ」って自慢できるでしょう。将来大学や仕事の関係で静岡を離れても、静岡のことを考えるときに「ああ、駿府城公園でおでん食べたな」って思い出になる。そんなつながりを作っていきたいですね。

取材日の夜には「青葉横丁」のお店にうかがいました。カウンターには地元の常連客はもちろん、北は仙台から南は鹿児島と全国からお客さんが集っていました。その空間には「このおでんの食べ方は〜〜」「このおでんに合う静岡のお酒は〜〜」とおでんを介した会話とたしかなコミュニティができていました。静岡にお越しの際にはぜひ立ち寄ってほしいお店のひとつです。
(文=深水央、写真=深水央、窪田司)

【おでんや おばちゃん】
http://odenya-obachan.com/
<駿府城公園店>
静岡県静岡市葵区駿府城公園1-1
TEL:080-5824-7400
営業時間:10時〜17時
定休日:年中無休(お電話でご確認ください)

<青葉横丁店>
静岡県静岡市葵区常磐町1-8-7
TEL:054-221-7400
営業時間:16時〜22時(ラストオーダー21時30分)
定休日:日曜日